大判例

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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)49号 判決

大阪府堺市浜寺元町四丁目四七八番地

上告人

桜井実千代

右訴訟代理人弁理士

忰熊弘稔

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 植松敏

右当事者間の東京高等裁判所昭和六一年(行ケ)第二八五号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年一二月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人忰熊弘稔の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤島昭 裁判官 中島敏次郎 裁判官 木崎良平)

(平成三年(行ツ)第四九号 上告人 桜井実千代)

上告代理人忰熊弘稔の上告理由

一.原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるから、破棄を免れないものである。以下、その理由について述べる。

(1) 原判決は「作図法から言っても引用例第(二)図に図示された線28がコーミングの右端縁を示すものとして何ら矛盾はない、」と判示する。(原判決五七丁裏第一行~第三行)

しかしながら、線28は引用例の明細書本文中のどこにも、28を、コーミングの端縁と記載されているものではないのであり、これは段差としか記載されているものでしかない。

仮に線28を「コーミング端縁」と明細書本文中に明記しているとすれば、後述する矛盾があるとしても正に発明者がその意で発明を表現したと言えようが、即ちこのことは特許法第三六条の第三項には発明内容は明細書中に於ける詳細な説明の欄に記載することを規定していることから当然で、明細書本文中の記載を根拠にしてこれを優先し判断すべきであるのであり、しかるに添付図面は阜に補助的な説明手段に外ならないのであるが、殊更原判決は次述する理由で欠陥となること明らかなる図面を優先させ、しかも線28を明細書本文中に何らの記載もない「コーミング端」の字句に変えて判断したことは従来の経験則に反する。(線28は段差としか記載されてなく、若しこれを勝手にコーミング端縁の位置と判断すると発明の目的が達成されなくなるばかりか、構成及び作用に重大な欠缺やトラブルを生じさせる矛盾となる。)

(2) 引用例(特開昭四八-八六二八五号公報)は審査未請求のままで放置された単なる公開公報に過ぎないのであり、即ちこれは審査請求されて所謂審査に合格して発行された公告公報ではないのであるから不備や欠缺の点が多大あるることは従来の経験則から言って極めて明らかなことである。従って、原判決で一線28がコーミングの右端縁を示すものでないとした場合線28に該当するものがないことが明らかである。(原判決五七丁表第二行~第三行)」としても未審査の欠陥図面に対しては当然のことであって何ら正当性は無い。

このことを、具体的に言えば若し引用例が審査請求されて審査に入り、このさいに第二図の線28がコーミング端と判断されるとか、或はその特許公告で同様判断されるものとなる場合は、明細書中の記載(発明の目的として自動的に係合緊締され開放時にはそれらが自動的円滑に外れ得べき新規且つ独創的な装置に関すると記載されている。引用例第三頁左上欄第一七行~第一九行)に対し矛盾する実施不能なものとなることが明らかになることから(特許法第三六条違反)その審査段階で、或はその異議申立では必ず正しく訂正されるものとなるのである。(この修正は別紙図面(二)のりの位置となる。)

(3) 上告人は前項の線28をコーミング端としたとき実施不能となる根拠について、再度図面(別紙)に基ずいて具体的に説明する。

別紙図面(一)は引用例第二図の於て線28がコーミング端縁を示すものとしてハッチカバーの格納される状態を段階的(A~Eの五段階)で示したものである。

Aはハッチカバーで閉塞された状態を示すものである。この状態では最前のハッチカバー(イ)と、次のハッチカバー(ロ)とは、その接合部mで完全なシール状態となっている。(このことは溝形曲線ガイド65に引締めローラー64が完全に嵌入された引用例第三図の状態である。)

次に格納作業では、ハッチカバー全体が図示例で左方向から右方向へ向け矢印F方向に押圧されるのであり。この時後部ハッチカバー(ロ)とのシール結合は未だ外れていないことから(溝形曲線ガイト65に引締めローラ64が嵌入されたまま)、Bに示す如くそのまま水平方向へ引き出されるのであり。即ち線28の前方へ車輪25がランプ31から外れて浮いた状態で引き出されるものとなって、決してランプ31に沿わない。

Cはハッチカバー(ロ)の車輪32がキッカー25を上ることによりハッチカバー相互のシール結合が外れる(溝形曲線ガイド65から引締めのローラー64が外れて行く)状態を示すものであり、まだこの状態でもハッチカバー(イ)は線28のの前方へ大きく浮き出た状態のままとなっている。

Dは車輪32がキッカー上に登りシール結合が完全に外れた状態を示しており、この状態でハッチカバー(イ)はコーミング端縁のK点を支点に重力作用で下向きに急激に反転されるものとなる。Eは最終的に反転落下した状態を示す。

以上の通り、引用例で線28をコーミング端縁と仮定すれば、K点でハッチカバー底面の摺擦やハッチカバーの反転落下が行われ、重量のあるハッチカバー(ハッチカバーは厚肉の鉄板製)の大きなトラブル(損傷)となるのであって全く実施不可能である。

これに対し、別紙図面(二)は引用例に於ける本文中の詳細な説明の欄の記載に基ずき、コーミング端縁位置を第(二)図内に正しく求め(画い)てハッチカバーの開放される状態を同様の五段階で図示したものであり。各ハッチカバーは矢印F方向に押されることによりシール結合が順次自動的に外れると共に、先頭のハッチカバー(イ)もランプ31の傾斜に沿って円滑に走行していくのであり、前述の如きトラブルは全く無い。

(4) 原判決では、明細書本文中の記載で「コーミングの端縁に於て上方へ少し突起するキッカーとなり、(引用例第二頁左下欄第二行~第三行)の記載に関し、キッカーが形成されるのがコーミングの端縁を外れた部分ではなく、コーミングの端の部分であるごとを示しており、引用例の第二図の線28がコーミングの右端縁、即ちハッチ開口部後端を示すものとすることに沿うものである。」(原判決五九丁表末行~裏五行)と判示しているが、コーミングの「端部」と言えば経験則から言って「端縁」となる限界部を指すことは自明なことである。従って、これを別祇図(二)の通りのコーミング端縁位置と正しく解釈すれば、右明細書中の記載はそのまま素直に理解されるものとなるのである。しかるに、右判示によとハッチカバー長の半分程度までもコーミング端からハッチ開口側へ入ったものまでも「端部」と解釈する大きな無理がある。

尚、引用例の右記載の続きには「更にランプ31を形成してカバー格納所に通ずる(引用例第二頁左下欄第二行~第三行)」と記載されるているのであり、若し線28をコーミング端縁とすればハッチカバー開口側内へ入り込んで車論32に沿わないランプ31が形成されるものとなって、この解釈にも不部合且つ矛盾したものを生じさせる。

尚、原判決で「右記載中、コーミングの端部においての語句はキッカー25となりの語句に続くものであり、上方へ少し突起するの語句はキッカー25を形容するのが自然であり、従って、前記認定のような意味と認められる」(原判決五九丁裏第九行~六一丁第二行)と判示しているが、コーミングの端部において云々は、主語が前段のガイドレールになることから、即ちガイドレールがコーミングの端部、即ちその端部となる限界部で(該位置から)上方へ少し突起するキッカー25となる(上方へ突起する部分はコーミング端部を基点とする)と理解することの方がより自然である。(文章作成上の経験則から言っても、極めて自然な表現と言うことができて正当性がある。)

尚、原判決で「34は該つりさげ車輪のガイドレールであって・・・カバー29がランプ31からキッカー25を経てハッチコーミング26上に運び出されるときまたはその逆行動をとるときカバー29の内側がハッチコーミング26の端縁に引っ掛からないように起伏時においてもカバー29を適宜の高さにつりあげておくとの記載によれば、ハッチコーミングの端縁は、カバーがつりさげ車輪によってガイドレールにつりあげられることによって引っ掛からないようにできる位置にあることが認められ、このことは、前記引用例の第(二)図の線28がコーミングの端縁を示すものとすることに沿うものである。」(原判決六一丁第三行~六二丁二行)と判示しているが、右記載による判示で即ち第二図の線28がコーミングの端縁を示すものとした場合には、ガイドレール34の先端は線28の左側へ、即ちハッチ開口側へ大きくは入り込むことになるのであって、ガイドレール34先端がまだハッチカバー相互のシール結合の外れないもののつりさげ車輪33を釣り上げるべく特機していると言う全く無意味で無用(無駄)な設計を敢えてすると言うことになるのであって、これ又不自然で常識外れのものとなる。尚、引用例第(一)図はその図面の説明に見られる通り引用例発明の着想を説明する路図として記載されているものであるが、該図でキッカー25の左端(上り傾斜基点)付近でハッチカバーが直線状に連結されるものとなっている下方向部分までがハッチ開口部であると考えるのが、理論上正当性がある。(このことは該図でキッカー25を上っている傾斜したハッチカバーの下方までがハツチ開口部となっているなどとは到底常識的にも理解できるものとならないことによる。)

(5) 線28をハッチコーミング端縁部としたとき、走行車輪がキッカーを上るまでは後続のハッチカバーとのシール結合が外れないことから、最初のハッチカバーがハッチコーミング端縁部から大きく前方へ押し出される(別紙図(一)のB、C参照)のであり、ハッチカバーの開放(格納)が、何ら円滑に行われないで実施不可能であるとした点、及びハッチカバーの開 (ハッチ開口上部の蓋閉め)が不完全となるとした点に関し、原判決ではハッチカバーが格納架台から引出されることの明細書中の記載を引用して何ら問題無く行われることを判示(原判決第七一丁第一~第二行)しているが、引用例の発明目的はハッチカバー相互のシール結合が自動的に、即ちシール結合の係合緊締及び開放が自動的に行われることを考慮すれば、即ちこれにはハッチカバーの車輪32がキッカー25を必ず通過することが必須条件となるのである。ところで、ハッチ開口部の閉 (ハッチカバーの格納架台からの引出し)時には最後のハッチアカバーの一つ前のハッチカバーに於ける車輪32がキッカー25上を通過することから、両ハッチカバー間のシール結合が自動的に行われてその閉 状態が完了したものとなっているものの、次に逆のハッチカバーの開放動作では前述の蓋締めで最後のハッチカバーの車輪32は線23付近のランプ31上にあることから、該最後のハッチカバーの車論32はも早やキッカー25を昇降する作用を行わないのであり。従ってシール結合が外れるにはその後のハッチカバーの車輪32がキッカー25を通過することを待たない限り行われない(シール結合が外れない)ことを理解する必要がある。

よって、このことは(3)項で図解した通り、即ちハッチカバーの格納時には先行のハッチカバーは必ず突出状態に水平方向へ一定長さ飛び出し、その車輪32はランプ31に決して沿うものとならず、後のハッチカバーの車輪32がキッカー25を上ってシール結合を外したあとに反転落下するものとなるのである。

従って、当初ハッチカバーの引き出しでハッチ開口部の蓋閉めが線28の位置で出来たとしても逆動作となるハッチカバーの格納作業は同様の作業で行われるものとならい。

これを今一度説明するとハッチカバーの格納を行う逆動作ではシール結合を外すためのキッカー25を走行するハッチカバーの車輪32が、ハッチカバーの引出し動作の場合ではハッチカバーの前後位置でハッチカバーの長さ分異なるものとなるかるであり、即ち最後のハッチカバーの車輪32がキッカー25を通過した右側の位置にあるとは言え、この状態(線28をコーミング端としたもの)では次のハッチカバーとのシール結合が未だ外れていないのであり、即ちこの場合のシール結合を外すための車輪32は後のハッチカバーの車論32であるから、原判決はこのことを看過した誤りを犯しているのである、(ハッチカバーの格納作業では引出し作業の単なる逆動作とはならない問題があるのであって、判示の理由は片手落ちのものである。)

(6) 原判決では、ハッチ開口部に展開された蓋を固定した状態ではハッチカバーを沈下してハッチ開口部上縁との水密を保つようにすることを理由に支障が無いと判示しているのでこの点について説明すると、水密のために沈下分に相当するゆとりが走行時のハッチカバー下面のパッキンとの間に設けられていることを恕定しても、線28をハッチコーミング端とした場合には、どうしても克服できない不都合のあることが明らかである。

何故ならば、水密のためにハッチカバーを沈下させる寸法は如何に大きく見積っても5~7 程度のものでしかないのであり、これに対しハッチカバー格納時にその先端がコーミング端縁から水平方向へ突出する長さは少なくても40 ~50 は必要(図示例ではハッチカバー長の半分程度)となることを考えれば、これの突出分を前記パッキン間隙との関係で補正するようなことは到底出来るものとならないからであり。従って如何に小さいハッチカバー長のものでも一尺以上は線28の上端から格納架台の水平方向へ突出し、該端を支点に反転される際にはその吊り下げ車輪32がガイドレール34上へ乗っているか否かに関係なく、突出したハッチカバー先端がランプ31上へ向かって反転落下するものとなる、(先行ハッチカバーの車輪32はシール結合が外れるまではランプ31の傾斜には何ら関係なく、そのまま格納架台側へ浮いた状態に押し出される。)

二.以上の通り、原判決の理由は判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令違背をなしており、破案さるべきものである。

以上

図面(一)

〈省略〉

図面(二)

〈省略〉

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